どうやったら自死を防げるのか

10年以上前に弟を自死で失って以来、私は毎日のように「どうやったら自死を防げるのか」を考え続けている。

 

正直、トラウマが強過ぎて、自死に向き合うのにものすごく時間がかかり、とてもではないが「自死を防ぐ」まで到達できていない気がする。

 

それでも私は考え続ける。

 

最近、アメリカの超人気ブロガーが、富士山の青木ヶ原の樹海に潜入し、偶然見つけた遺体をブログの動画にあげたことが問題視された。

 

特に議論されたのは彼がその遺体を見ながら冗談を言ったということについてであった。

 

ただそれはストレスに直面した際,能動的に対処した結果だとも語っていた。

 

その動画は元のサイトからは削除されていたが、別で保存されていたため、私は勇気を出して全てを観ることにした。

 

そこにはぬいぐるみの帽子を被った若いアメリカ人男性が、意気揚々と青木ヶ原に入って行く様子が撮られていた。

 

そして林の中には首を吊った男性が顔にモザイクをかけられた状態でしっかり映し出されていた。

 

ポケットにはお財布と思しきものなどが入っており、その1メートルぐらい離れたところにはカバンが置いてあった。

 

ただ眠っているだけと言われてもおかしくないくらい普通に見えた。

 

ブロガー達が警察を呼んだので救急車が到着した。

 

遺体の顔ははっきり見えないけれど、ファッションや持ち物から私よりはるかに年下なのではないかという印象を持った。

 

書きながら思い出しただけでも泣けてくる。

 

彼が自死した理由はわからない。ただ遺族のことを思うととても辛く悲しくなった。

 

日本では最近、30-40代の男性の自死がもっとも多いらしい。

 

氷河期しか経験せず、成功体験もない中、努力すれば報われた世代に結果を求められても、引っ張り出す引き出しがなく追い詰められるのだろう。

 

敗者復活がなかなか許されない日本において、自分ももし同じ状況にいたとしたら。気持ちはよくわかる。

 

自死は精神的に弱い人がするものだ、という意見もある。ただ私はそれだけが理由だとは思わない。

 

人間生きている以上、嬉しい時もあれば悲しい時もある。感受性が豊かということが時には良くも悪くも作用するということなのだと思うのだ。

 

フェイスブックで何気なく目にした動画はそれを裏付けるものだった。

 

駅のプラットホームに設置された防犯カメラにはスーツ姿の男性がはっきり映し出されている。

 

彼はカバンを壁に投げつけた後、携帯電話も床に投げつけ、とうとうしゃがみこんでしまった。

 

たまたまそこをバギーを押すご夫婦が通り過ぎた。

 

異変を感じたお母さんは男性が気になり、赤ちゃんをお父さんに見てもらって引き返した。

 

次の瞬間、男性が高速で通り過ぎようとする列車の前に飛び込もうとしたところ、お母さんは男性をつかまえプラットホームに引き戻した。

 

まさに間一髪、母強し!自分の危険を全く省みない行動に心を打たれた。

 

男性の半分くらいのほっそりとした女性のどこからあんな勇気と力が湧いてくるのだろう。

 

英語で特に教会ではよくBe the right person at the right time at the right placeという表現を耳にする。

 

意訳するとふさわしいタイミングと場所に置かれるふさわしい人になりなさい、ということで私もずっとそれを念頭に置いている。

 

まさにこのお母さんはそれを体現しており、大きな希望を感じた。

 

感動して涙が出て、何度も何度も繰り返し動画を観てしまった。

 

彼が電車に飛び込もうとした理由はわからない。ただその動作から怒り心頭し、絶望的なのはいやがおうにも伝わってくる。

 

脳科学の見地から怒りは6秒我慢すればおさまるのだという。

 

実際カッとなって人殺しをしてしまった人は、刑務所の中ではもっとも安全な人達の部類に入るらしい。

 

怒りからの自死、いや、あえて自殺という表現に置き換えた場合、6秒我慢すればおさまると解釈できるのではないか。

 

生きていれば必ず良いこともある。

 

感情をコントロールすることを学ぶことで、一人でも多くの方が生き続ける選択をし、何度でも立ち上がっては強くなる道を歩んでいくよう願ってやまない。