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もしも彼女がタトゥーを入れていたら

海外にいるとファッションでタトゥーを入れている人をよく見かける。外に出れば目に飛び込んでこない日は無いくらいだ。

 

正直なところ最初はこわかったけれど、あまりにもよく見かけるので目が慣れてしまった。

 

さりげなくチェックすると小さめの文字だったり大きめなイラストだったり個性が光る。

 

外国人の友人に「僕の名前を日本語で書いて」と頼まれたのでカタカナで書いた。タトゥーにしたいのだそうだ。

 

(本当に入れるのかなぁ)と半信半疑の私をよそに、再会すると「こないだのあれ」と満面の笑みで腕にしっかりと刻まれたタトゥーを見せてくれた。

 

日本が大好きなアジア人の間で、日本語や日本にまつわるアイテムをタトゥーにするのが人気らしい。

 

日本での旅行を終えて戻ってきたばかりの外国人のお友達が「見て見て、日本でサムライのタトゥーを入れてきたよ」と誇らしげに見せてくれたこともある。

 

あまりにもタトゥーをよく見かけるので日本人のお友達に冗談で「私だったら何を入れるかなぁ」と空想気味に言うと「ゼッタイにやめた方が良い」と真剣にとめられた。

 

海外にいるとつい日本の常識を忘れがちだ。確かに日本ではまだまだタブー視されている風潮があるらしい。

 

タトゥーを入れた外国人が日本の銭湯に入ったら日本人のお客さんが即座に消えてしまったので不思議に思ったそうだ。

 

もし大好きな彼女がタトゥーを入れているのを知ってしまった彼はどうするのだろう。身近な人には相談しづらい気がする。

 

悩んだ挙句、彼は、ヤフー知恵袋や2ちゃんねるに悩みを打ち明けるかもしれない。

 

早速、検索してみるとそういうスレッドがたくさん立っている。やはり共通の悩みのようだ。

 

ファッションが目的でタトゥーを入れている人達は他人にどう思われようが「自分が好きだから」というスタンスで入れているのだろう。

 

好きになった人がタトゥーを入れていたとしたら。好きな人の「好きというもの」はなるべく受け入れたいだろうし、その努力もしたい。

 

ただ結婚を考えた時に躊躇してしまうのは、やはり社会的にどう思われるかを考えてしまうからだろう。

 

そのせいだろうか。そんなことを考えると余計に「もしも彼女がタトゥーを入れていたらどうなるか」を考えてしまった。

 

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「えっと、隠しててごめんね、実は私、背中にタトゥー入れてるの。」

 

付き合ってしばらくしてから彼女が秘密を打ち明けた。

 

「えっ?!」

 

信じられない気持ちだった。まさか彼女がタトゥーを入れているなんて。

 

「見たい?」

 

「うっ、うん。。。」

 

二人っきりになると彼女は意を決したように上着をめくり上げた。

 

少し暗い部屋の中で初めて見る背中。緊張して目のやり場に困る。それでも瞬時にカラフルな色に惹きつけれた。

 

背中にはクジャクが描かれていた。首元から腰にかけて優雅に佇み、その周りにはお花などが取り囲んでいる。

 

「うわぁ、スゴイ」

 

本格的なしかも結構な大きさのサイズのタトゥーを見るのは生まれて初めてだ。

 

タトゥーには独特な魅力がある。普通の絵と違って体の温もりと脈を打つ血管が絵に命を与える。クジャクは今にも浮き出してきそうなほど神秘的に見える。

 

初めて見る背中とタトゥー。大好きな彼女が一層魅惑的に見えた。それと同時に感動と同じくらいのショックも感じていた。

 

彼女とは結婚するつもりでお付き合いを始めた。後ろ姿を見ると、背中が開いているウェディングドレスをきれいに着こなしているイメージも湧く。

 

1人になると深いため息が出た。気を紛らわせる気持ちでネットを検索すると、自分と同じような悩みを抱えている人が結構いることがわかった。

 

「胸元に小さなタトゥー」とか、そんな悩みがむしろうらやましい。たくさんの人がいろんなことを書き込んでいる。

 

そこには予め自分の頭の中で想定しうる答えが満載だったが、読めば読むほど感化されてくる。

 

(やっぱり別れた方が良いかな。。。)

 

日に日に弱気になってきた。彼女に対しては結構本気だったし、今も気持ちに変わりは無い。

 

友達に言えたら気がラクになるのに。でもこんな悩み、言えるわけがない。

 

スマホが鳴る。彼女からのメッセージだった。普段通りで相変わらず読むだけで気持ちが明るくなる。

 

考えて解決することでも無いのであまり深く考えずまた会うことにした。

 

いつもの待ち合わせ場所で彼女を見つけた。

 

後ろめたい気持ちで彼女を見ると首から肩が大きく開いているトップスを着ている。

 

(あんな服を着ていたらタトゥーを見られるかもしれないのに。。。)

 

屈託なく笑う本人以上に心配していると、気持ちを察したかのように彼女は言った。

 

「こないだはタトゥーにびっくりした?」

 

「うん、結構驚いた。でもキレイだよね」

 

ふさぎこんだ気持ちを隠すようにつくったような言葉が出てしまう。彼女は反応を伺うように顔を覗き込んだ。

 

すると突然、彼女は笑いだした。

 

「あれね、もう消えちゃったよ。ほら。」

 

「えっ?!」

 

恐るおそる背中に目をやって驚いた。あるべきはずのタトゥーが無い。

 

唖然としながらもホッとした。

 

「なんか『ギャップ萌え』とか好きそうだったから。」

 

「はっ?!」

 

キョトンとしていると

 

「タトゥーって言ったけど消えないとは言ってないからね、本気にするしめっちゃウケたわ。」

 

とお腹を抱えてずっと笑っている。

 

(そうか、だまされたのか。。。)

 

肩の力がドッと抜ける。怒るのも呆れるのも通り越してお腹が空いた。

 

「じゃあさ、だまされてやったからおごって。」

 

「なんで〜、意味わかんない〜。」

 

その日はずっとふたりで訳も無く笑い続けた。

 

おしまい