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心と体に効く瞑想 <第八回> 〜野生編 (2)〜

ミャンマーの森であっと驚く野生動物に遭遇した。それは午後9時に瞑想を終えて各自が宿泊施設へ戻る途中だった。

 

懐中電灯が全員に貸し出されるものの、等間隔に外灯があるので特に点けなくても平気だと思ってスタスタ歩いていた。

 

それに比べて他のヨギ達は足元を入念に懐中電灯で照らしながら歩いている。それでも私は早く部屋に戻りたい一心で、特に足元に気を留めることもなく懐中電灯は持っているものの使わずに歩いた。

 

瞑想室を出て左手に曲がる。階段を降りて蓮池の横を歩く。そしてまた階段を登ると宿泊施設にたどり着く。

 

部屋のすぐ側の歩道で、私の隣の部屋に泊まっているヨギが立ち止まって懐中電灯で地面を照らしている。無言のまま(ここに気を付けて)と言わんばかりに円を描きながら照らされた場所を見て愕然とした。

 

なんと、あろうことかそこには野生のサソリがいるではないか!全長10センチ以上はある体を持ち上げて戦闘態勢そのもの、攻撃準備万端といった様子なのだ。

 

初めて見る野生のサソリ。(スポットライトを全身に浴び、黒光りして艶めく強固なボディー。S字型の曲線を描くフォルムが美しい。)などと悠長に感慨深い想いに浸る間などあるはずもない。

 

(ひぇぇぇぇ、余裕で絶叫するレベル)と思いつつただただはやる気持ちを抑えてそそくさと立ち去るのが精一杯だった。

 

「ウォォォォ、ナンヤネン、ゴレェェェェ、マジデコワスギンネン、ワレボケカス〜、ギャアアアア!??!!」

 

後ろから凄まじい声が聞こえた。とっさに何語か判別できなかったが、ここには女子しかいない。恐怖のあまり性別を超越し、うっかり内なる秘めた男性性が全開したかのような雄叫び。関西弁で話していたらきっとこんな感じに違いない。

 

案の定、叫び倒すヨギ。野生のサソリを初めて見て驚きのあまり声を抑えずにはいられなかったのだろう。声を出さないルールとかすっかり忘れ去られていた。

 

それにしても尊敬すべきは、懐中電灯で照らし続けたヨギだ。野生のサソリから1メートルも離れていないのだから彼女自身がサソリの餌食になりかねない。それでも彼女は勇気を出して他のヨギ達に注意を促すべく立ち止まっていたのだ。

 

小柄な彼女はいつだって細やかな心配りのできる人だ。私が木製のスタンドでできている物干しを移動していたら窓越しに見えたのだろう。スッと出てきて無言で手を貸してくれた。

 

瞑想の目的の1つは「自分の感情をコントロールして他者を守れるようになること。」午後6時に逐次通訳付きでマスターの講話の録音を聴くのが日課であり、その時に教わったことだ。

 

他者のために自分ができることをさりげなく実践しているヨギ達の優しさに、またもや純粋な慈愛を見出し感動せずにはいられなかった。